もうひとつのキルト。それはお客さまの愛犬、タロウちゃん(ペキニーズ )のキルトです。すでに天国へ旅立たれてしまったということですが、絵画ではなく生地でつくりあげるキルトで、タロウちゃんの存在をいつも身近に感じてもらうため、とにかく質感にこだわりました。
今ごろきっと天国で走り回っている実家の犬、ロクの作品をつくったときも、その毛並みや触り心地を思い出しながらつくりました。ご飯を食べる時はイスの背もたれに飛び乗ってきて、私の背中にピッタリ。寝る時はベッドの上でお互い寝心地の良い姿勢を見つけるまでモゾモゾし、どんな時も従順でいつでも味方でいてくれる彼ら。全く同じ犬種で見かけがそっくりでも、やはりうちの子は特別で一番可愛い。人間と一緒です。そんな気持ちを知っているので、気に入ってもらえる作品を作ることが出来るかどうか不安でしたが、ただ写真とそっくりに、というとうそになってしまうので、いろいろと聞いたタロウちゃんのお話を思い出しながら作りました。
こちらのキルトも前回ご紹介した「Pines Lakeの家」キルトと同様、ずいぶんと長い時間をかけてしまいました。お待たせしてしまったにもかかわらず、先日納品しましたらとても喜んでくださいました。「壁に飾ったのですが、リビングにいてもキッチンにいても、どの位置にいてもタロウちゃんの目がこちらを見ている。」という言葉が印象的でした。
何でも手づくりはそうですが、キルトをつくるということは、ひとつの作品と途方もなく長い時間向き合うということです。ずっと楽しいわけではなくて、苦しい時間の方が長いかもしれない。だけどこうして心の底から喜んでくれる、感動をひとに与えられる、そんな瞬間のために頑張れるんだと思います。生涯でいくつ作品をつくれるだろう。その中でどれだけの人に感動してもらえるだろう。これからも自分にしかできない作品作りを目指してがんばろうと思います。
2013.05.12